森正洋作品解説下書き
今回のレポートでは、森正洋が生前、整理していたスライドキャビネットに保存されていた1995年のドイツでの講演用原稿をもとに、スライドと文章を再構成し紹介します。森正洋が自らの作品とその時代背景などを具体的に説明しています。
1 今日は、森正洋です。ハレ大学に来て話すのを楽しみにしていましたが、体調が悪く出席できないのを大変残念に思います。又せっかくの招待にお答えすることができず申しわけありません
2 私の若い頃からの作品をスライドで示しその頃の話など入れて説明します。私の家です。自宅とAアトリエ、Bアトリエ、Cアトリエとショールームがあります
3 学生達が1-2名は宿泊できる部屋もあります
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5 大学3年の時、初めて自分なりのフォルムが見えてきたと感じた物 粘土原型から石膏原型を作り 冬休みに県の窯業試験場で焼いたもの 其の頃 学校には実習できる生産設備ありませんでした
6 全部の行程を自分1人でやるので 新しい技法の発見もあった。白素地と鉄入り素地との混合鋳込みです
7 卒業制作1952年 2m×1.5の壁画レリーフです 磁器
8 これも1952の卒業制作です。磁器無釉の地に黒釉で絵付けしてあります。中心に穴をあけて感覚的にも風通しがよくなった
9 1953年 長崎県窯業試験場での試作砂糖壷で陶器です。試験場は2年程居ました
10 これも陶器。酒器です。黄色のハンドルは上絵のコンプレッサーによる吹付け
11 1954年。陶器の花瓶です。試験場の試作品は販売できないので、価格が付きません
12 白山陶器での仕事。磁器エンゴベーによる絵付。よく売れて小企業でのデザインが認められたもの
13 1958年。しょうゆ差し。明るい市場が見えて来たもの。 現在(1995年)も続いており、日本でのロングラン商品の代表になっているもの。35年以上も続いて、多くのデザイン賞をもらいました
14 1959年、茶器
15 調味料セット。これも10年程生産しました。プラスチック業界に影響をあたえました
16 1960年 灰皿。これも現在も生産しているロングランの商品です。絶対に煙草が外に落ちない安全なもので積み重ねがよく、オフィスやホテルでよく使われているようです
17 1961年。竹を巻いたもので試作品を展覧会に出したら、アメリカのバイヤーから注文がはいり竹工場の作業に苦労しました(磁器の生産リズムと竹の加工リズムが調和しない)
18 1962年。酒器。これもグループ展に出品した物を酒のメーカ「大関」が契約してくれて大量に10年程も作り続けました
19 染付(アンダーグレズ)による茶器
20 梅は日本ではよく使うモチーフですが新しい感覚でプリントしました
21炻器の灰皿
22 磁器の灰皿です
23 ピッチャー。商品になりにくいので苦労した
24 氷入れと組んで商品化した
25 キャニスター。竹の弾性を利用して蓋をおさえる構造です。木片は中心が大きくずれています
26 鋳込で作ったコーヒーマグ。ロクロ成形?では、できない形を目標にした(大工場のロクロ製品との競合をさけるため)
27 釉の変化でプリント模様を入れた天目の皿 やきもの独自の表現技法で質の高い皿にした
28 陶磁器でないと表現できない材質感、表現に注意した
29 材料の特性を積極的に生かす表現
30 同じ鉄のプリントで天目釉と白釉の花瓶
31 灰皿
32 灰皿は形の変化が楽しめる品種だが、今は灰皿の需要はおちこんだ
33 時には粘土による自由な表現のトレーニングが必要である
34 粘土の表情や窯での変化などの発見が表現の豊かさをもたせる
35 焼けばとける石 焼けば収縮してわれる土
36 やきものの特性と自由さ。素材の特性と自由さ
37 花瓶。いろいろな形が簡単に自由にできる。しかも数多く、くりかえし生産ができる
38 組み合わせで連続できる花器
39 同じ
40 陶磁器では茶器は重要な生産品目です
41 日本人の食事は和、洋、中国食と混合している。72年に和と洋の食器の展覧会をしました。洋の5ピース食器に対し日本ではどんな食器が必要か考えた。手前がヨーロッパスタイル。向こうが伝統的日本のスタイル。同じ平面でつないだ
42 その時のコーヒーセット。日本の家は狭いので整理しやすく、生産もいい(共通の型が使える)ように3種の直径に統一した
43 同じ高さになる。棚の中に収まりがいい
44 同じようにドリッパーも加えた
45 1972年。鉄釉の結晶が美しい東洋の釉です。新しいトンネル窯になり、美しい釉が焼けず生産中止
46 積み重ねがよいキャニスター
47 カップ展の指名コンペで作ったもの。イメージを表現したものです
48 1974年。東京でカップだけの個展をした時にハンドルを実験したもの……。この中から1種類を生産にうつした
49 白木のコースターを付けた。74年のイタリーファエンツァ国際展で金賞をとり販売もスムーズにいった
50 マグでピンクのハンドルを作りました。色素地の鋳込みによるハンドルです
51 同じスタイルの蓋物
52 1974年。木のハンドルを付けたコーヒーカップとデミカップ
53 1974年。ハンドルのにぎり方をかえたカップ
54 1974年。実験したもの
55 74年に実験したものをリ・デザインして85年に量産したもの
56 ハンドルのない断熱のカップ
57 植村直己さんが1人で北極をこえた記念展に出品したもの。時には用のない物をも創るのも楽しい
58 白磁の透光性のある照明具
59 薄い白磁の素地が歪まない形を考えた
60 横に置いたり
61 傾けて立て、置いたりして光と形の変化を楽しめる
62 透光性の効果を利用したホタル手の食器
63 白磁のレリーフのある食器
64 公園のスツール。単独でも連続しても使用できます
65 板作りの磁器です
66 S型カトラリー(ステンレス)チャンスがあれば、他の材料もデザインしました。デパートからの依頼でデザインしたものです
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68 同じくデパートの要求でデザインしたガラスカップ各種
69 皿
70 皿。線のグラデーション
71 染付のプリント模様
72 象印魔法瓶からの要求でデザインしたサーモス…。やきものの食器と同じテーブルで使われます
73 同じサーモス
74 1976年。組み合わせによるパーティープレートの個展の時(東京)
75 正方型を斜めに切った大中小の組み合わせで使用する盛皿
76 1976年。自分の好みに応じて形を組み合わせて使う
77 1人用で使う時は単独で使える
78 1984年。組み合わせれば2個でも10個でも場に応じて変化させる
79 同じコンセプトの丸味のある皿
80 組み合わせの変化により、角の皿とは違うテーブルが演出できる
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82 1994年。多くの組合せが楽しめるパーティープレート
83 1994年。組合せの例
84 同
85 1995年1月に東京で個展をし発表した
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87 1985年。丸、三角、四角の基本形をテーマ '85ジャパンデザインコミッティー公募展の(無釉白磁)トロフィーにした
88 自然の形は人間が計算する形とは違った別の魅力ある形をもっている。川からもって来た石を そのまま石膏形(石膏型)にとり花瓶にする実験をした
89 自然の石に少し加工することで自分の物にした
90 花瓶
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92 時計のメカは小さく簡単に取り付けられる。粘土が抑えられた形そのままの陶板。1時から11時まで少しずつ溶けていった棒があります。
93 1970年。手ざわりを主に考えてカップをデザインした
94 目の見えない人も触覚で楽しめる
95 1970年。生産し、一部では好評だったが、一般市場では売れず苦労した
96 同じコンセプトでのロックカップを78年に作り
97 氷入れ水入れなどを付けて発表したら好評で8年間の市場の大きな違いを感じた物である
98 カップの内部を重要視して形を考えた
99 ロックセット
100 注器は機能的な要求が強く、形が意味をもっているのでデザインするのにファイトが出る
101 1977年。ストライプをプリント(転写)したソースと塩、こしょうのセット(染付)
102 1981年に国立近代美術館で開催した「注ぐ」展のポスター。上が私の物で下は魯山人と云う日本の陶芸美術のボスだった人の物。使える形ではないのだが、日本ではやきものに対する変な見方が一部あります。茶道とか懐石食器など、私には理解できません
103 注器の実験
104 炻器で無釉の物
105 注器(六角型)注ぎ具合はとてもよい
106 お酒の器です
107 1988年。酒はリラックスさせてくれるものだから形が自由に楽しめる
108 1989年。酒、ワイン、ビールなどのカップ
109 酒やワイン、やきもの、形や釉、模様が楽しめる
110 1993年。冷たい酒がよく飲まれるようになった。昔はなかった飲み方なので形の伝統はなく自由に考えられる。中心に氷を入れ ハンドルの所から酒をいれます
111 1995年。角形の物で後部から氷を入れます。中が2つに仕切られています
112 同
113 カップの実験。形の変化、円柱をタテ、ヨコ、ナナメに切って少しずらした形
114 カットした変化
115 カットした面のテクスチャーに変化をあたえた
116 ドッキングするカップ。お酒のカップは特に自由でよいと考える
117 1969年。手で作った不定形のラフなボウル。規格品にはない、ラフな土の形の魅力がある
118 10年以上も考えて同じコンセプトの量産できる不定形の生産方法を開発した
119 小さな皿から大きい皿、ボウルまで全サイズを作って発表した
120 型に彫りこんだ単純な模様もバリエーションを作り、白いグループ、黒(天目)のグループで発表した。バレンシヤの国際陶展グランプリ
121 1983年。ヨーロッパでの受賞ですぐ、イギリス・ビクトリアアンドアルバートの展覧会に招待され、続いてN.Y(アメリカ)テーブルトップ展に招待(アメリカクラフトミュージアム)。そしてNY近代美術館の83年のカタログ表紙になった
122 同じ型のものを2次加工することでイメージの違った物に広げた
123 1995年。フチ(縁)に流し釉をして、やきもの独自の表現をした
124 1995年
125 日本の生活でやきものは食器がほとんどで、その中心はめし茶わんです。これは1960年のデザイン。12cmの径です
126 1990年にデザインした径15cmの大きい物で余白が充分にあるものです
127 広い面が見えるので、色や模様など表現するスペースが効果的です
128 赤いめし碗など昔は考えられなかったのですが、現在は受け入れています
129 日本の磁器は1600年頃始まったのですが、伝統的様式が強く現代化にはまだまだ抵抗があります。このめし茶わんなどめずらしい例です
130 12色の色釉を使い、多様な感覚に対応するようにしました
131 1992年。東京で個展をし、同一サイズで150種ものバリエーションのある発表会をして大好評を受けました
132 1995年7月に完成した陶壁画。2m×50mあり、長崎県波佐見(白山陶器のある所)のやきもの公園にあります。「陶磁の路」セラミックロードです
133 近くの山の赤土や陶石など焼いて土、石の変化を見せます
134 溶ける石や焼いた鉄など不思議なエネルギーを感じる表情をしています
135 成形で使用する型や工具。色の違う土の練り込みなど見せています 製造工程の流れを表現した
136 釉の変化、鉄、クローム、コバルトなど、やきものの表現技法を絵巻物風に見せました
137 大きい陶片タイル(粘土を切った線が美しい)やこの町の業者が描いた陶片をはり地元の人々の協力を組みこんだ
138 発色の強い釉や金箔をはりつけたデコラテイーブなタイルを最後の技法として50mの壁を終わらせた
139 この山に古代から近代までの世界の窯、12基の復元工事が今、進んでいます。来年3月までに完成します。来年7月から10月まで やきもの博が有田であり IAC(国際陶芸アカデミー)の総会が10月に日本(名古屋、有田)でありますので ぜひ来日してください。歓迎いたします。有難うございました
最終更新日 2009.07.16