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デザイナー 原 研哉

無限に反復される誠意

                    

 初めてお目にかかった時には、漫画家の黒鉄ヒロシに似ていると思った。飄々としていて、優しげで、しかしどこか人を食ったような印象も含めてである。お会いしたのは日本デザインコミッティーのメンバーとして初めて参加した例会の席だったと記憶している。デザインコミッティーの例会には、渡辺力さんや森正洋さんなど、ご高齢の会員が、かくしゃくとして出席しておられた。森正洋さんが毎回、佐賀から、この会に出席されるために来られていたことを知ったのはかなり後のことであるが、いつもにこやかに、僕ら新米の会員に接してくださっていた。森正洋さんにお会いできるのが、この会に出席するひそやかな楽しみでもあり、また緊張感でもあった。

 森さんは、コミッティーのメンバーを四〇年も務められたのだが、メンバーになる前の若い頃、松屋のグッドデザインに選定されるまで、醤油差しのデザインを幾度となく修正を繰り返し、応募され続けたそうだ。選外になると、どこが悪かったのかを聞き、そこを修正して何度も応募される。ついに選定品となった醤油差しは、今日では日本の定番デザインである。醤油差しの定番というよりも、日本の日用品の中で傑出したデザインとして皆が知るものとなっている。この逸話が、僕にとってのデザイナー森正洋の存在感の中核である。

 一度だけ、佐賀の仕事場をお訪ねしたことがある。その時にはこんな話をされていた。
「陶磁器の産地の真ん中でね、数万個も量産する製品を作っているなんていうと軽く見られちゃうんですね。陶磁器は手作りの一品もので数十万円もするような〝芸術品〟が尊敬されていますから。数万個の、値段の安い量産品を作っていると、これは尊敬してもらえない。しかしね、コンスタントに数万個を売り続けられるような製品を生み出さないと、産業とは言えないと思うんだよね」
 本当にその通りだと思った。その言葉は今でもお腹の底の方に刺さっている。  

 こんな話もされていた。
「京都の高級な旅館に泊まると、飯茶碗はすごく軽くて小さくて薄いでしょ。でも僕の感覚からすると、毎日使う飯茶碗はもう少し厚みがあって、平たい。その方が安定感もあるし、よそったご飯がうまそうに見える」
 なるほど、と思った。森さんは器を通していつも暮らしを見ていて、その視線にぶれがなかった。デザインとは、無限に反復される誠意だと、その態度から教わった。こういう人と、少しでも同じ空気を吸っていられることは本当にありがたいと感じていた。

 仕事場で、醤油差しを大きくしたような酒器にふと眼がとまった。いいですねえ、これ、と感心してしげしげと見つめていると、
「それじゃあ、持っていくか」
と気前よくくださった。今でも時々この酒器で飲む。自然と、森正洋さんの記憶とともに酒を飲むことになる。

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写真:原研哉

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