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MORI MASAHIRO DESIGN STUDIO, LLC.

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山加商店  加藤 武朗

 山加商店の加藤武朗と申します。弊社は岐阜県土岐市の洋陶器食器のメーカーです。森正洋先生との出合いは一九八二年ごろ、先生が五十代半ば、私は三十代前半でした。弊社は北米向けディナーセットの専門メーカーから日本市場へと大きく転換すべく苦労している時代でした。アメリカ向きのディナーセットは大枠の皿やカップの形状やサイズはおおむね決まっており、乗せる絵柄が商品の大きな比重を占めていました。一方、国内向けの食器は、同じ洋食器と言っても食生活も違い、素材、アイテム、形状、絵柄の全体のバランスが重用で、商品開発が難しく困っていました。思い切って九州の森先生を訪ねたのはそんな時でした。弊社の実状を訴えデザインしてもらうことができぬか、依頼しましたが、安易に外部にデザインを求めるより社内のデザイナーを教育した方がよいのではないかと言われました。そんな経緯がありましたが、その後、先生には亡くなる直前まで二十数年間にわたり弊社のデザイン指導をしていただきました。今思うと、先生は広い視野で日本の陶磁器デザインを考え、後身の養成を考えておられた。後に愛知芸大の陶芸デザインの教授として就任されたのも、そういう気持ちからと思われます。その後、愛知芸大の教え子が何人か弊社に入社し、今でも活躍してくれています。先生は万年青年のようなところがあり、学生に交じって六十歳ぐらいでスキーを始められたり、新しいことに、積極的に参加、実践されました。

 さて森正洋の商品はなぜロングライフなのだろうか。なぜ普遍性があるのだろう。機能的に完成しているから、どの時代でも使い勝手がよく、飽きが来ない、シンプルでモダンである。まさにその通りで疑いの余地はありませんが、それだけでしょうか。
 森先生の造形(フォルム)には整った美しさがあります。機能面を重視すると時にフォルムがぎこちなく固い感じになるものですが、それがまったくなく、機能と形状の見事に融合した整ったラインの美しさがあります。この端正なラインはどこから来るのでしょう。

 森先生は例えると偉大な指揮者だと私は思っています。指揮者は楽団のあらゆる楽器に精通してその特徴を知り、どうしたら最善の調和が生まれるかを考えています。さまざまな楽器とその演奏者は陶磁器の製造技術であり、工場の製造現場の機械とそれを扱う人々です。素材である生地、釉薬、絵の具、(機械や工場の特性も含め)製造上の様々な技法に精通したうえで、あの綺麗なラインは生まれてくるのです。決して紙の上だけのデザインではないのです。そして観客が居ます。消費者である使用者、生活者です。生活者にとって機能性はもちろん大事ですが、さらに使っているうちにイマジネーションが刺激されることが大事で、生活の充実、楽しみにつながっているのです。
 森先生のひとつひとつの器はそのようにできているのではないでしょうか。
 作りやすさと使いやすさの融合した端正なライン。それが森正洋の食器の最大の特徴であると思います。 先生の言葉の「量産された こなれた良さがある」というのはこういう事ではないでしょうか。生産者もまた生活者であることを思いださせてくれます。


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金箔銀箔彩ボーンチャイナ、マグカップ、碗皿絵付け見本品。森正洋先生作成

 二〇〇五年三月ごろ森先生からボーンチャイナに金箔の絵付けの試験をしたいので、弊社の白生地のシンプルな形状のものが欲しいと言われ、お渡ししたところ九州に持ち帰られ一ヶ月ほどして受け取ったのが写真のマグカップと碗皿です。
 カップの裏には直筆で二〇〇五年四月一二日 八九〇℃と描かれています。二〇〇五年の一一月に亡くなられる半年ほど前です。最晩年まで新しい技法に自ら取り組まれていたことが分かります。
 森先生の置き土産と思い、大切にしています。

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