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MORI MASAHIRO DESIGN STUDIO, LLC.

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佐賀新聞社編集局長  富吉 賢太郎

愛すべき陶磁器デザイナー 森正洋さん

 発表されたのは一九五八年というから、もう半世紀以上前である。以来、同じ姿形で売れ続けているもの。そう、第一回グッドデザイン賞受賞「G型しょうゆさし」である。
 シンプルでスマート。後引きしない優れた機能性。使いやすさと手ごろな値段。「日本の食卓風景を変えた器」といわれたこの画期的な器をデザインしたのが森正洋さん。誰でも知っていることだが、書かずにはおられない。森さんは日常使いの器を〝美術品〟にした人である。
 塩田町(現嬉野市)で生まれた。有田工図案科を出て有田町の初代 松本佩山に師事。その後、多摩美大で学び、長崎県波佐見町の陶磁器メーカーで数々の食器を世に出した。それらはすべて手になじみ、温かい。そんな森さんの器について、親交の深かった元有田民俗資料館館長 井手 誠二郎さんは「それは、森さんの人間に対する限りない愛の表れだと思う」と言うのだ。本当にそうだと思う。
 森さんの手を通して心を豊かにしてくれる器は暮らしにとけ込み、愛され続けるのだ。一九九二年の「平めし茶碗」もそうである。染付、釉裏彩など伝統的な技法を駆使している。普段使いの器は〝手ごろ値〟であることが大事で、それを工場による大量生産で可能にしたところがすごい。
 森さんは、県境を越えた肥前陶業圏と産業陶磁器の将来を思う余り、時には激しく産地を叱咤し、時には温かく包み込んできた。
 何年前になろうか、文化庁などが主催した「森正洋の全仕事展」が、有田町の県立九州陶磁文化館で開かれた。初期の作品から晩年の「無印良品・和の食器」までの約二千点は焼き物に携わる有田の職人達を刺激した。
 今は〝冬の時代〟にあるという窯業界。常に日常食器の豊かさを求めて仕事をしてきた人が何を言おうとしていたか、窯業関係者たちは、長いトンネルを抜け出すヒントを見つけ出そうと必死だったことを今でも覚えている。
 森さんは、自身の作品づくりだけでなく、有田のことを若い頃から考えていた人だった。多くのエピソードがそのことを物語っている。
 例えば、一九七〇年八月、意気盛んな有田窯業関係者七人がはるかヨーロッパへ旅立った。その昔、有田からオランダの東インド会社の貿易船に乗って海を渡ったおびただしい有田焼「古伊万里」を訪ねる旅である。
 香蘭社社長だった深川正さんや柿右衛門窯の酒井田正さん(十四代柿右衛門)ら、後に「七人のサムライ」と呼ばれる人たちの中にヨーロッパ行きを志願した森さんもいた。森さんら七人は、当時、まだ国交のなかった東ドイツ・ドレスデンの宮殿に眠っていた大量の古伊万里名品を発見。渡欧五年後に〝里帰り展〟を実現させたのである。
 今でも世界中から賞賛される、愛すべき陶磁器デザイナー。それが森正洋である。

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