写真家 四宮 佑次
森 正洋氏のこと
森 正洋氏との出会いはかれこれ二〇年程前である。或る雑誌の撮影で波佐見の白山陶器のギャラリーで出会った。お世辞にも想像するインダストリアルデザイナーといういでたちではなく、何処にでも居るおじさんという感じの方であった。朴訥としたしゃべりかたやその容貌の中に、温かく茫洋とした氏を垣間みた。この方が「G型しょうゆさし」を世に送り出した本人なんだ、かの栄久庵氏と並び称されるデザイナー 森 正洋なんだ、と思ったのが氏の第一印象であった。
ライターとのやり取りの中で、撮影する作品が決まった。猪口と徳利? 徳利というか鹿児島のジョカの注ぎ口かG型しょうゆさしのそれのような型で、猪口も高台で和洋両方の趣きを有する器であった。よ〜く見て、この二つを真横から撮影することにした。猪口と徳利のバランス、ここに神経を集中させた。
バックは黒の化粧合板、物の乗ってる辺りにグラデーションのハイライト、物の後ろは漆黒、これで物の表情、質感、思うように構築出来た。当時はフイルムのため、ポラロイドで撮り、上がりを氏に見て頂いた。『良いね!』氏は心より喜んでくれた。お互いに熱いものを感じた瞬間であった。本番のフイルムでシャッターを切り、終了。
後日、氏から電話があり、「次の個展から、この写真を大きく伸ばし、会場に飾りたい、ついては使用しても良いか?」とのことであった。私としては、当然のことながら、「ご遠慮なくお使い下さい」と二つ返事で了承した。氏からの連絡はこの一回だけではなかった。個展の度に必ず「使用してよいか?」と連絡を頂いた。何も連絡もせず、使用して当たり前と我が物顔で使用する人もいれば、律儀に連絡して頂く氏のような人もいる。私は、氏に「ご自由にお使い下さい。使用許可なんて無用です。喜んで頂いて本望です」と伝えた。森 正洋とは心優しい大きな心の持ち主であったと思う。後日、平めし茶碗が届いた。