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2013.09.15

「森正洋 使う器展」 – 美しさ、機能、品質・・・知力の賜物

2013(H25)年5月28日(火)付けの佐賀新聞15面文化学芸欄に寄稿された、九州陶磁文化館学芸員 藤原友子氏の記事につきまして、許諾を得て以下に転載します。


 

「森正洋 使う器展」
美しさ、機能、品質・・・知力の賜物

 今年の有田陶器市は137万人という過去最高の人出だった。陶器市には110 回という冠がつけられているが、これは明治29年に開催された第1回陶磁器品評会から数えた回数である。
 陶磁器品評会は「九州山口陶磁展」として今日に至り、九州陶磁文化館で第一部(美術工芸品・オブジェ)、有田商工会議所で第二部(産業陶磁器)が開催される。未発表の新作が並ぶ、日本で最も伝統ある陶磁器の公募展で、買い物を主体とする陶器市の影に隠れてしまっているが、ともに楽しんでいただきたい。
 九州山口陶磁展の入賞者には有名陶芸家や窯元が名を連ねている。明治45年には今泉藤太(10代今泉今右衛門)、酒井田柿右衛門(11代)が入賞。昭和33年に青木龍山、昭和36年に井上萬二などの名がみられる。
 昭和42年入賞者の中に「森正洋」の名前を見つけた時、驚きとともに、肥前という陶磁器の伝統産地の多様性と、この展覧会の歴史的な意義を実感した。
 いわゆる陶芸家ではない森正洋の名を聞いて、すぐに陶磁器作品を思い浮かべる人がどれだけいるだろうか。「白山陶器のデザイナー」としてピンとくる方もおられれば、若い方の中には「無印良品 −和の食器− シリーズのデザイナー」として知る方もおられるかもしれない。

typeG
森の代表作「G型しょうゆ差し」。第1回グッドデザイン賞を受賞した

 森正洋が世に送った代表作に「G型しょうゆ差し」がある。昭和33年作で、醤油を卓上でさすための器である。醤油という日本の食生活に欠かせない調味料の量には、微妙に個人の好みがある。また、無駄にしたたれず、食卓を汚さないようにささなければならない。G型しょうゆ差しは、突起した蓋のつまみに穴があり、穴を指で抑えて蓋と身を密着させることで、きちんと好みの量をさすことができる。機能性の高いこの食器は、昭和35年の第1回グッドデザイン賞を受賞した。
 モダンデザインの基本的な考え方に、ルイス・サリヴァン(1856〜1924年)の「形態は機能に従う」という有名な言葉がある。食器のデザインに機能性を求めた森正洋は、いわゆるモダニズムのデザイナーに位置づけられるだろう。そして、これは伝統産地にありがちな慢性的で過剰かつ無意味な装飾に対して、氏が時に見せた痛烈な否定にもつながる。
 その一方で、森正洋デザインは、食事をとるという物質的充足を満たすことだけに終始してはいない。氏には、人が楽しみ、幸福にもつながる「飲み、食べる」という行為を彩る器は、美しく面白みがあり、快適かつ信頼のおける品質であるべきとの一貫した姿勢がある。また、生産効率も考え、価格の妥当性も目指すという極めて難しいバランスの上に置かれていた。
 作りたいものを単に作るという創作姿勢ではなく、茶わんひとつとっても、過去に作られた製品を踏まえ、なぜこの形なのか、なぜこの装飾が必要なのかを熟考する。森正洋デザインによる器はそうした知力の賜物であった。
 そして品質を支えたのは、伝統産地の持つ職人気質や技術力である。およそ400年続く伝統産地が持つ重層性が、氏のような陶磁器デザイナーの巨星を生み出したといえるだろう。
 5月17日から、森氏の遺族・田代勇氏から当館に寄贈していただいた森正洋デザインの陶磁器を紹介する「森正洋 使う器展」を開催している。展示の随所では、江戸時代の有田焼と比較展示を行っており、時代を超越した陶磁器の魅力に触れていただければと願っている。

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